「やさしい日本語」という言葉をご存知ですか?もし知らない方がいたら「やさしい日本語」の存在だけでも知ってもらえると嬉しいです。
「やさしい日本語」とは?
まず「やさしい日本語」の基本を知りましょう。
「やさしい日本語」とは、わかりやすい日本語のこと
「やさしい日本語」は、外国人にもわかりやすく情報を伝えるために考えられたかんたんな日本語のことです。普通の日本語を相手のレベルに合わせて言い換えをします。
例えばこのように変換するのです。
・高台に避難してください→ 高(たか)いところへ 逃(に)げて ください
・無料→ お金(かね)は いりません
「高台」「避難」「無料」これらは、外国人にとっては難しい漢字です。それをかんたんな日本語へ言い換えます。これが「やさしい日本語」にするということです。「やさしい日本語」とは、「優しい」の意味と「易しい」の意味を持ち合わせた言葉でもあります。
「ルビ」や「分かち書き」でさらにやさしく
話すときは、普通の日本語をかんたんにするだけで大丈夫です。書いて伝える場合は、漢字のすべてにふりがな=ルビが必要になってきます。外国人にとって、特にアジア圏外の人にとっては漢字は日本語で最も難しいものです。「やさしい日本語」は相手のレベルに合わせることが大事ですから、ルビを振りましょう。
「分かち書き」も 相手に 寄り添う 手段の 一つです。
「分かち書き」とは、上記のように言葉の区切りにスペースを置くことです。言葉の区切りを示すヒントがあれば、さらに読みやすくわかりやすい日本語になりますね。
「やさしい日本語」に正解はない
「やさしい日本語」には一定のコツや考え方はありますが、実は正解はありません。わかりやすく伝えようとする心が一番大切です。
「やさしい日本語」の誕生
「やさしい日本語」について、もう少し詳しく見ていきましょう。
「やさしい日本語」はこうして生まれた
「やさしい日本語」は、1995年の阪神淡路大震災がきっかけで生まれました。当時、外国人に対する災害情報の提供が整っておらず、日本人よりも外国人の死亡率は約2倍、負傷率は約2.4倍でした。
このような反省から、どのような言語で情報提供するのが好ましいかという課題が生まれました。その後の調査で、かんたんな日本語が一番通じたことがわかり、「やさしい日本語」が誕生したわけです。
「やさしい日本語」の必要性
「やさしい日本語」が求められるのは、減災防災のためだけではありません。今や外国人労働者も増え、日本に住む外国人は280万人を超えています(令和2年9月時点)。日常生活をする上で、市役所や街中でも情報を得る機会は多いのです。日本語に不慣れな外国人でも、同じ日本国内に住んでいるわけですから情報格差があってはいけません。
「生活者としての外国人」や「日本語を母語としない人」にとっても難しい曖昧な表現は避けるべきでしょう。
「やさしい日本語」の問題点
「やさしい日本語」にも問題点はあります。なんでもかんたんな日本語にしたらいいかというと、そうではないのです。
たとえば、病気に関することです。重大な告知は命に関わる情報ですので、正しく伝わらなければなりません。患者自身が聞きたいことを聞くためにも専門の医療通訳が必要になります。
「やさしい日本語」は誰が使う?
「やさしい日本語」はほかでもない私たち日本人が使います。
「やさしい日本語」の使用例
最近ではNHKでも「やさしい日本語」での字幕表記などされています。以下は「やさしい日本語」で書かれたニュースサイトです。外国人のある一定のレベルに合わせた語彙を使い、「ルビ」や「分かち書き」も使用されています。とても参考になるのでぜひ見てください。
英語より「やさしい日本語」
日本国内において、外国人は実は英語より日本語のほうが話せる人が多いことを知っていますか?日本にいる外国人の中には、英語が話せない人もいます。それよりも、勉強して日本語を少しだけ話せる人のほうが圧倒的に多いのです。ですから、日本国内で外国人と接するときはかんたんな日本語、つまり「やさしい日本語」で話すことが有効でしょう。
外国人観光客も3人に1人が日本語の学習者といわれています。おもてなしの気持ちで「やさしい日本語」を使えば、意思疎通が楽になりお互いの満足度も高まるのではないでしょうか。
「やさしい日本語」は日本語教師が普及させる?
「やさしい日本語」は、心がけ一つで使えます。しかし普通の日本語をかんたんな言葉に言い換えすることは、やはり慣れていないとすぐには難しいです。日本語教師であれば、普段から語彙コントロールと言われる、相手のレベルに合わせた言葉遣いをしているので抵抗なく言い換えができるのではないでしょうか。「やさしい日本語」の取り組みも日本語教師のフィールドの一つと言えるでしょう。
まとめ
「やさしい日本語」の歴史は25年以上あります。しかしまだまだ日本全体への浸透は薄いです。まず「やさしい日本語」という世界を知ること。そして外国人の方と接する機会があった際には「やさしい日本語」のマインドで接していきましょう。
《参考文献》
「〈やさしい日本語〉と多文化共生」ココ出版
編者:庵功雄・岩田一成・佐藤琢三・柳田直美